直斎好 名取河香合

和物香合を代表する好み香合として、「形物香合番付」の行司役に挙げられ、流儀のみならず広く知られている。名取河は仙台を流れる川の名で、そこから産出される埋木は、当時の領主伊達家にすべて収蔵された。その埋木の一つが宮中へ献納され、七代直斎が九條家との縁でこれを拝領した。この埋木からは名取河香合が五つ造られ、さらに蓋だけが造られて残りを他の材で補った六つ目がある。長角錫縁の外見は木地を生かし、身の内側に川波のさわぐ有様を細かく蒔絵した意匠で、蓋裏に「名取河」、身の底部に「守(花押)」の文字が漆書されている。これ以来、歴代家元による写しが造られ、波の蒔絵は流儀を代表する図柄となり、数々の道具に用いられて好みものが造られている。

直斎好 真塗矢筈棚

七代直斎はその出自により、千家の茶風にはあまり見られなかった公家文化の影響をもたらした。この矢筈棚も有職の調度品であった冠卓をもとに好まれたとされ、直斎が入手した明七宝の火焔馬文水指に合わせて造られたという。真塗の背の低い四方水指棚で、四本柱の右手前1本を柄杓が通いやすいように省き、代わりに紅染の総(ふさ)を垂らしている。その総を取りつけるために天板の小口が矢筈状に工夫され、棚名の由来となっている。黒と朱の色の調和と、優雅に長く垂れた総には洗練された美しさが感じられる。この棚には「判の柄杓」と呼ばれる、柄の部分を煤竹にして裏を黒塗にし花押をしたためた柄杓を使用する。
なお、地板の火焔馬文水指はのちに十代中川浄益に造らせた写しになり、天板に飾られた柳桜蒔絵棗は九代好々斎の好みで、伝来の嵯峨棗をもとに造られたものである。